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札幌地方裁判所 昭和54年(ワ)5046号 判決

原告

久木田和子

右訴訟代理人

山根喬

外二名

被告

張英基

右訴訟代理人

藤井正章

主文

被告は原告に対し金三六一万〇二五九円及び内金三二六万〇二五九円に対する昭和五三年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一請求原因第1項(事故の発生)及び第2項(責任原因)の事実は当事者間に争いがないから、自賠法三条によつて、被告には、原告が本件事故によつて受けた傷害による損害を賠償すべき責任がある。

二そこで損害につき検討する。

1  原告が、本件事故により受けた傷害を治療するため、昭和五三年八月二七日から同年一〇月四日まで通院したこと、その結果、額及び左眼下部に後遺障害として自賠責後遺障害等級一二級一四号に該当する醜状痕が残つたことは当事者間に争いがない。

2  損害額を算定する。

(一)  治療費 金八万六九二〇円

当事者間に争いがない。

(二)  逸失利益

金一八九万五二五九円

本件事故のあつた昭和五三年当時、原告が二九歳の女子であつたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば原告には健康上の問題は無かつたものと認められるところ、前記認定の後遺障害の内容、程度にかんがみると、原告は、昭和五三年から一〇年間労働能力を一四パーセント減退せしめられたものと認めるのが相当である。昭和五二年賃金センサス第一巻第一表によれば、産業計・企業規模計・学歴計の二九歳女子労働者の平均給与月額は金一〇万七八〇〇円、年間賞与その他の特別給与額は金三七万六一〇〇円であることは当裁判所に顕著であるから、賃金上昇率五パーセントを加味し、ライプニッツ方式計算法(有効数字六桁)により年五分の割合による中間利息を控除して原告の逸失利益を計算すると、別紙のとおり金一八九万五二五九円(円未満切捨)となる。

なお、原告が家庭の主婦であることは当事者間に争いがないものであるところ、被告は、顔面の醜状痕によつて家庭の主婦に逸失利益が生じることはない旨主張する。しかしながら、家庭の主婦の家事労働は財産上の利益を生ずべきものであり(最判昭四九・七・一九民集二八・五・八七二参照)、かつ広い意味の家事労働すなわちハウス・キーピングは多様な要素によつて成立する高度の作業であつて、他人との円滑な接触もその一要素と解されるから、顔面の醜状痕が家事労働に影響を及ぼすことは明らかである。したがつて被告の右主張には理由がない。

(三)  慰謝料  金一五〇万円

前記認定の傷害の部位、程度、治療経過、後遺障害の程度その他諸般の事情を考慮すると、慰謝料額は金一五〇万円を相当とする。

3  右は合計して金三四八万二一七九円となるところ、原告は被告から金二二万一九二〇円の弁済を受けたことは当事者間に争いがないから残余は金三二六万〇二五九円である。

4  本件事案の内容、審理経過、認容額等にかんがみると、原告が被告に対して損害賠償として求め得る弁護士費用相当額は金三五万円を相当とする。

三よつて、原告の本訴請求は、被告に対し金三六一万〇二五九円及び弁護士費用相当額を除く内金三二六万〇二五九円に対する本件事故発生の日である昭和五三年八月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(寺田逸郎)

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